若岡拓也の日本列島大縦走

若岡拓也の日本列島大縦走 #9
2023.09.15 若岡拓也

若岡拓也の日本列島大縦走 #9

PAAGO MAGAZINEでは、日本列島大縦走中の若岡さんの走破記録を週ごとにレポしていきます。旅のスタートから2ヶ月が経とうとした今週からついに日本アルプスに突入。みなさんもどこかで若岡さんに会ったら、ぜひ写真を撮ってパーゴワークスまで送ってください! どんどん紹介していきたいと思います。

日本列島大縦走の詳細については、こちらをご覧ください!

今週の記録

9/6 54日目 26.7km

八ヶ岳縦走。硫黄岳、赤岳、キレットまでは荒涼とした風景が広がる。コケの美しい北八ヶ岳や高見石山荘周辺とのギャップにしびれる。いつまでも眺めていたいが、昼過ぎから天気が崩れる恐れありという天気予報が気になり、先を急ぐ。昼頃に本降りの雨。キレットを下り、標高を落とすと森が広がっていた。木々の間に隠れて雨をやり過ごす。通り雨だったようで、編笠山では青空が広がる。そこから下山するだけと甘く考えていたらルートを間違えていた。南に向かうはずが、南西を向いていた。何度か下りたことのある登山道を無意識にたどっていた。結果として大回りするはめになった。

9/7 55日目 7.8km

台風の接近により、南アルプスは強風。大事をとって山には入らないことにした。小淵沢のペンションから8kmほど離れた長坂駅前にあるゲストハウスに移動。ひたすら食べて1日を過ごす。大量の飲食物を体に入れても肉が増えない。それでも、運動時にエネルギーとして使えるグリコーゲンは補充できたはず。体内にストックできるのが1,500kcalくらいなら半日は保ってくれる。

9/8 56日目 0.0km

引き続き台風の影響で停滞。窓の外は静かで、行けたんじゃないかとモヤモヤする。先を急ぐわけじゃないが、休んでいるだけなのは嫌だ。もっとも、駅前は静かで、雨もまばらに降るだけだが、山は完全に白くけぶっていた。雨の中、風速30mに見舞われたら、もうどうしようもない。行かなくてよかったんだと言い聞かせる。またひたすら食べる。福島でサポートしてくれたじゅんこさんが長野県在住で、前日この日と料理を差し入れてくれた。買ってきたものと合わせて、次々と口に運ぶ。

おにぎり、パン、パン、カレーライス、チョコ、ヨーグルト400g、野菜ジュース、パスタ、サラダ、クラムチャウダー、クッキー、牛乳1L、団子。食べすぎてちょっと苦しかったのは秘密だ。

9/9 57日目 38.0km

午前3時起床で行動開始のはずが、二度寝してしまい宿を出たのが6時だった。舗装路と近道のトレイルを織り交ぜ、20km進んでようやく薬師岳への登山口となる青木鉱泉に到着。いよいよ南アルプスだ。

午前中は霧に覆われており、まだ午後の方が眺望は期待できる。寝坊を前向きに処理しておく。

下山してくる人に聞くと、やはり霧が深くて何も見えなかったとのこと。期待値を下げて淡々と登る。標高2,500m近くなると、太陽がうっすら見えてきた。霧が流れて青空まで。山頂部のすぐ手前まで樹林帯だったのが、白い岩だらけに変わる。ザラザラとした表面の花崗岩っぽい。調べてないけど。

薬師ケ岳、観音岳までは晴れ間が見えたが、地蔵岳に差し掛かる頃に、霧が立ち込めてきた。岩の尖塔・オベリスクが霞んでいく。青空に映える白い岩塔を想像してきたが、これはこれで神秘的だ。山頂近くの賽の河原に並んだ数々の地蔵とともに、祈りの風景をより魅力的に見せてくれる。

地蔵の数がそのまま信仰心の厚さにつながっている。

9/10 58日目 64.3km

白根御池小屋で朝焼けの空をおがむ。鳳凰三山の上空が赤く染まっていた。風のない静かな時間。御池は色とりどりのテントを映していた。このままのんびりしたい気持ちに駆られるが、そういうわけにもいかない。

この日のうちに南アルプスを抜けるのだ。北岳の手前で声をかけられた。ルートを逆走して会いに来たという。気持ちだけで嬉しかったのに、おにぎりやジェルまでいただいた。「賞味期限切れだけど。」とはにかむサトウさん。ジェルは熟成されて、中身は一部が結晶化していた。4年ものは味に深みがあった。

北岳から間ノ岳へは、日本一の標高を誇る稜線歩きだ。遠くに富士山を望み、絶景が続く。たびたび足を止めて写真や動画を撮ってしまう。

塩見岳の手前からは霧に包まれ、ペースアップ。三伏峠までスムーズに進めた。西に流れて鳥倉登山口まで下りる。ここからが本番だった。延々と舗装路を駆け下りる。15km以上走ってようやく人里に着いた頃にはすでに真っ暗だった。

宿なし、飲食店なし。最寄りのコンビニはさらに17km先だった。長い1日だ。

9/11 59日目 18.9km

夜中から行動を再開してコンビニを目指す。ろくなものを食べていなかったから、まともな食事を取りたかった。コンビニのパスタとサラダがごちそうだった。登校する小学生とあいさつしながら駒ヶ根市を目指す。中央アルプスへの入り口まで20km。空木岳の登山口近くに泊まって疲れを癒した。

9/12 60日目 29.0km

寝坊したおかげで、楽しい出会いがあった。

駒峰ヒュッテの女性スタッフに、こんなことをしていると話すと、楽しそうに反応してくれた。最後はツーショットを撮って、ヒュッテを後にした。

空木岳の山頂からにぎやかな声が響いてくる。男女4人が休憩していた。女性3人は友人同士で、男性1人は巻き込まれたのだという。ここでも大縦走の話をすると、4人とも面白がってくれた。なぜか、いろいろと食べ物をいただく。種田山頭火にでもなった気分だった。

夕暮れが終わる前に下山。この日も宿はない。どうしたものかと進んでいたら、近くにキャンプのできる木曽駒冷水公園があった。テント泊は無料、24時間営業の無人売店もある。近くのペンションで入浴もできる。助かった。最後までいい1日だった。

今週のつぶやき

初心を忘れるところだった。

南アルプスから下りて、がんばるスイッチが入ってしまう。日暮れまでに下山するという制限時間を突破しようと、わりと真剣に走った。

そこにきて、友人たちが海外レースに出ている様子をSNSで見ていたのがよくなかった。昼夜を問わずに走っている。

周辺に宿がなかったこともあり、僕も夜通し走ろうかなと妙なことを考えた。天気予報と毎日にらめっこして、宿の予約を取ったり、どこまで進むのかを考えるのを少し面倒に思ってしまったのだ。

中央アルプスの前後もどこで停滞しようかと考えていたが、寝ずに走ればなんとでもなるだろう。体力ですべてを解決すればいいんじゃなかろうか。

100マイルレースを走るアスリートのような発想に支配されていた。ストイックにならず、楽しみながら進むと決めていたのに、だ。

そんなところに、大縦走の動画を担当するゆるやまさんから連絡が入った。残念ながら、ここ2カ月、1番連絡を取り合っているのが彼だ。同じような世代のおじさん2人が密に連絡を取り合っている。

動画に関する話の後で、中央アルプスも楽しんでと告げられた。

楽しむことを念頭に置いていたはずなのに、いつの間にか進むことしか考えてなかったと気付かされた。楽しむことを忘れて、道をつなぐだけに終始するのは何か違う。苦しいだけの道のりを作りたいわけではない。

心から楽しいと思える道を作らねば。改めてそう感じた。走って進むのは行動時間を短縮して、その分、山の景色や人との出会いを楽しむため。今回に関しては、記録や順位を狙う類のチャレンジではない。

早く進むことにも楽しみはあるが、それはまたの機会に。