MAGAZINE
伊豆トレイルジャーニー参戦レポート(木幡帝珠)
残り20km。
走りと歩きを交互に繰り返して進むが歩きの時間が増えてきた。
身体の状態にフォーカスして潰れないギリギリのスピードを出していく。
ここからスパートをかけていくか、まだ早いか、自問自答を繰り返す。
丘を越えると稜線のはるか先にはどでかい富士山。
答えは出た。
「リミッターを外せ!」
伊豆トレイルジャーニー(以下、ITJ)。2013年に創設され、伊豆半島を北上する66kmのコースは豊かな原生林から富士山を望む雄大な景色まで楽しめる、国内有数のトレイルランニングレースです。
今年はコロナ禍の影響で多くのレースが見送られるなか、ITJでは事前から万全の感染防止策を行い、待望の開催が実現。レース当日は天気に恵まれたものの12月の伊豆半島は気温が低く、十分な防寒対策が求められるコンディションでした。世界選手権2021の代表選考競技会に指定され、国内トップ選手をはじめ、1000名を越えるトレイルランナーが集結し、2020年を締めくくるビッグレースとなりました。そんなITJに、RUSHランナーの木幡帝珠が参戦し、22位を記録(!)。久しぶりのレースのこと、トップランナーがどのように走っていたのかなどなど、貴重なレースレポートを届けてくれました。
ウルフa.k.a木幡帝珠のコト
学生時代はバスケ部所属。漫画『SLAMDUNK』ドンピシャ世代でバスケに熱中!と言いたいところではあるが三井寿に憧れてしまいドロップアウト、インを繰り返し中途半端な活動で仲間たちにも迷惑を掛けてしまったことを今も後悔している。
30歳を過ぎてから登山を始める。体力作りのために走った事をきっかけにトレイルランニングに出会い、見切り発車でレースへ出場。初レースとなった道志村トレイルレースでコテンパンにやられてDNF。笑ってしまうくらいきつかったけど最高の遊びを見つけてしまい、どはまりして現在に至る。
自己流で練習していたが2015年にランニングショップRunboys! Rungirls!主催のランニングクラブへ加入。仲間と切磋琢磨しながら日々練習し、少しずつレースでの入賞回数も増えていき2018年からコーチを務める。現在は100マイルレースをターゲットに日々鍛錬中。サウナとカレーをこよなく愛する40男。2児の父でもある。
戦績
KOUMI100 2018優勝
TaiwaniaUltra Trail 2019 3位
UTMF2019 10位
UTMB2019 31時間完走
奄美ハナハナウルトラマラソン2020 優勝
レース前夜〜スタートまで
三島でのランナーの受付は前日の17時。15時30分に三島に到着し、エキスポへ行ってグルリ一周してから受付を済ませ、三島駅から徒歩7分ほどのホテルへチェックイン。翌朝の起床が2時予定なので早めに夜ご飯を食べようと思い外へ出ると、目の前にインドカレー屋を発見。セットメニューを注文。20時頃にベッドに入り本を読んでいるとウトウトしてきたので消灯。
三島駅3時発のバスに乗り、1時間30分ほどで松島港へ到着。バスの中でアンパンと塩パン、バスターミナルにコンビニがあったのでコーヒーとおにぎりを購入して食べる。会場の入り口では検温、消毒して会場内へ。
トイレを済まして荷物を預けて5時20分ころから少し身体を動かし始める。気温は約7度。思っていたよりは寒さは無いがじっとしているとやはり寒い。20分ほど体操とジョグをして3列目に並ぶ。スタート地点は、立つ位置にテープが貼ってあり密にならないようになっていた。
そして、いよいよ6時。ITJのスタートだ。
今回のレースでは、以下のような作戦を立てていた。
●ペースは、心拍数165を超えないように心がける。
●前半のハイペースに巻き込まれないように気をつけ、力みの無い腰高のフォームで走る事に集中する。
●補給は、40分に1本ジェル、塩熱サプリ、固形物はなしとした。
距離:66.0km/累積標高差(+)3,120m、(-)2,870m
スタート地点:松崎新港(静岡県松崎町)
フィニッシュ地点:修善寺虹の郷(静岡県伊豆市)
制限時間:14時間(6:00~20:00)
エイド数:3箇所
募集人数:1,200名
スタート~A1(こがね橋)26km
スタート前にシェルを脱いで、半袖にアームカバー、短パンで走り出す。C1宝蔵院までの10kmは舗装路の登り。トップ集団はあっという間に先に行ってしまったが、焦らずペースを上げ過ぎないように心拍計を見ながら進む。
登りの途中で同じくランボーアスリートの村田選手と合流して並走。宝蔵院を過ぎると登りのトレイルパートへ。ここでAnswer4アスリートのJR田中選手も合流し、3人パックでC2八瀬峠(13km)へ。ここから下り基調のトレイルへ入り、3人パックでグループランのような雰囲気で林道を進む。
3人それぞれ得意なパートが違うためサーフェスが変わるとリードする選手が変わるが、並走してC3諸坪峠(21.4km)を通過。ここからA1こがね橋(26.0km)までは下り基調の林道なのでスピードアップ!ここで村田選手と2人になり、A1こがね橋に到着。現時点で36位。エイドはスキップして先へ進む。
A1(こがね橋)26.0km~A2(仁科峠)40.2km
こがね橋エイドを過ぎるとダラダラと林道の登りが続く。ここも走るリズムに気をつけながら、歩かず走り続ける。C4二本杉峠を超えると伊豆山稜線歩道のトレイルに。ここでペースアップ、並走している村田選手と雄たけびを上げながら気持ちよく走る。
ブナ林を抜けると伊豆の稜線が続く最高の景色が待っていた。トレイルコンディションも最高!とはいえ少しずつ脚の疲労も溜まってきて動きが悪くなりはじめている。先行した何名かの選手もペースダウンし、見えてきている。自分だけじゃない、辛いのはみんな同じだ。ここでスピードを落とせば後続の選手にドンドン抜かされていく事は安易に想像できる。
久しぶりに味わうこのヒリヒリした感覚。思わず笑顔になってしまう。アップダウンを繰り返しようやくA2エイド到着。29位。500mlの水分補給、コーラ、おれは摂取す、メダリスト、トップスピードを摂取して2分程でエイドアウト。
A2(仁科峠)40.2km~A3(土肥駐車場)51.2km
仁科峠超えると、またまた伊豆の稜線の絶景コース。丘を超えるとその先には富士山が。先行している選手を少しずつ抜いていく。ここからここからと自分を鼓舞しながら潰れないギリギリのスピードを見極めながら進む。稜線を超えるとトレイルパートへ。階段が多くなかなかリズムに乗れないが、とにかくプッシュしてトレイルを超えるとロードの峠走へ。
先行している村田選手の姿がチラチラ見えるが追いつかない。26位でA3土肥駐車場へ。コーラ、トップスピード、メダリストを摂取して早々にエイドアウト。
A3(土肥駐車場)51.2km~ゴール66.0km
土肥駐車場を過ぎるとコースプロフィールは下り基調。ここからスパート!のはずが、蓄積された疲労からなかなかスピードに乗れない。かなり不安だったが、序盤から同じペースで進んでいた松永選手に追いつき並走。
そうこうしているうちに残り8km地点で後半追い込み型のJR田中選手が真後ろに!得意の登りパートで抜かされるがすぐに下りに入ったのでここで何とか食らいつく。ペースダウンしていた松永選手も息を吹き返し真後ろについてくる!
残り4km地点、ロードの下りに入り200m先に村田選手、100m先に田中選手。ここでスパートをかけてペースアップ。徐々に田中選手に追いつき追い抜く。残り2km、もう後ろは振り向かず全力で走りゴール。7時間4分34秒、22位だった。
2020年、ITJを振り返って
レース後に思ったのは「やっぱりレースは最高」って事。レースを目標に日々練習すれば生活にも張りが出るし、練習の質も変わってくる。レース会場に行けば仲間にも会えるし、レース中はバチバチのライバルでもゴールすればみんな笑顔だ。
温泉に入って、ご飯を食べながらレースの事をあーでもないこーでもないと話して、名残惜しい感じもしながら帰宅して、また家族にレースの事を話して寝床でレースの反省会。
レースを軸にこんな最高の1日を過ごせていた当たり前の日常が、2020年は当たり前でなくなってしまった。レースの開催も本当に大変な世の中になってしまった。この大変な状況下の中、大会の開催に尽力して頂いた大会関係者の皆様。ボランティアの皆様。最高の時間でした。本当にありがとうございました!
相棒はRUSH UT2!
ウルトラのトレイルレースに出るときの相棒となっているのが「RUSH UT2」だ。2019年ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)で、31時間背負って走って全く問題なし。ザックで大事な事は、身体にフィットする、干渉しない、揺れない、小物を取り出しやすいということ。といういう意味で、「RUSH UT2」自分には非の打ち所のない「最高の相棒」だ。
ITJに向けての装備品
「RUSH UT2」につづいて、装備を紹介したい。ITJは寒いよ!と誰に聞いてもそのアドバイスだったのでまずは「寒さ対策」を第1に考えていた。まずはスタート地点が港という事もあり、風が吹きっさらしなので走り出すまではシェルの上下を着用し、スタート前に脱いでいつでも取り出せるようにザックの後ろのポケットに収納していた。
走り出しはなるべく肌が露出している部分が少ないスタイルで半袖にアームカバー、首元にBUFF、手袋、ハーフパンツ(長めの8インチ)を着用。日中にゴールできたのでこのままのウェアだった。シューズは走れるコースなので、HOKA ONE ONEチャレンジャーATR5をチョイス。走りやすくフィットしていたが、中盤からくるぶしに当たり両足に激痛が...。やはりレースは履き慣れたシューズでないとトラブルの元になると再認識した。
木幡帝珠のITJトレーニング
階段の上り下りの練習
坂道を走り続ける練習
最後に、ITJに向けたトレーニングについて。ITJは峠走、林道、階段が組み合わさった「走れるコース」なので、階段を上がって坂道を走る練習や1kmほどの坂を往復することで、アップダウンへの耐性を高めた。夏場に故障してしまった箇所にまだ不安があったので、スピード練習は一切しないでジョグペースで距離を稼ぎレースを迎えた。なお、レース直前の調整は以下のような感じ。
〈前週〉
火曜日、木曜日:階段と坂を組み合わせた練習
金曜日:レスト
土曜日:キロ4分ペースで約20km
日曜日:1時間ジョグ
〈レース週〉
月~木曜日:約7kmジョグ(40分程度目安)
金曜日:レスト
土曜日:軽くジョグ20分から50m、ウィンドスプリンド数本
日曜日:レース本番!