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ON THE TRAIL 2024 参加レポート
2024.11.07 ACTIVITY REPORT

ON THE TRAIL 2024 参加レポート

グルメでも、美容でも、ショッピングでもない「韓国」

韓国旅行と言ったら、何を思い浮かべるだろう?

激辛グルメや、K-POP、流行りのカフェにいったり、美容施術を受けたり。実はこの私、ソウルに行くのは今年だけで3回目。そういったところはひと通り行ってきた。そんな私でも、最高に新鮮で楽しくて、今までにない韓国文化を体験したので、この記事で紹介したいと思う。

今回はOTT(On the Trail)というハイキングイベントに参加した。OTTがいったいどんなイベントなのかというと、1泊2日で50kmをテント泊装備を担いで歩くイベントだ。ここまで聞くとそんなに特別な感じはしない。ところがこのイベント、500人のULハイカーが集まり、チケットが数分で売り切れるという超人気イベントなのだ。インスタグラムで数年前からウォッチしていたイベントで、いつか参加してみたいと画策していた。

天国への階段地獄

さて今回OTTに参加したのは奇妙な組み合わせの3人組。右からパーゴの最年長スタッフ新藤さん、それから最年少スタッフのクノール、そして今この記事を書いてる私(ユリ)の3名。それぞれ年が10歳以上離れており、聴いてきた音楽も違えば、ライフステージも異なり、もちろん歩ける体力も違う。そう、この3人が一緒に歩くというだけで、いかにチャレンジングな山行か、おわかりいただけるだろうか。

イベントがスタートして10分で早速トレイルへ。いきなりの急登。運動不足の身体が悲鳴をあげている。30分ほど急登を登り続けると、長い階段が現れた。

正直に言おう。私は50kmという長さを舐めていた。韓国には高い山がないのを知っていたから、50kmと言っても里山を繋ぐ程度で大したことは無いだろうと思っていた。ところが開催5日前に発表されたエレベーションチャートを見て変だと気づく。累積標高3000m?最初の3kmで800mアップ?どうやらとんでもないイベントに申し込んでしまったようだ。

「階段地獄」それが今回のトレイルだった。韓国の登山道の特徴は、とにかくピークまで最短ルートでまっすぐに道が作られていることだ。日本のように、巻き道やつづら折りといった、まどろっこしい道は無い。ゆえに階段が多く、しかも急なのだ。階段の多くは踊り場がなく、ひたすら登り続けなければならない。登っても登っても、天まで続くかのように階段は伸びていく。

姥捨山という話を知っていますか?

日本昔ばなしに「姥捨山」という話がある。この3名がチームを組むとなった時、異国の山に置いてけぼりにされるかもしれないと危機感を感じた私たちシニアメンバーは、日本にいる時からクノールに恩を売り続けた。(押し売りとも言う) 

無駄に親切にしたり、ランチで焼肉定食を奢ったり。韓国に来てからも、可愛い女の子がいれば「シングルか聞いてこようか?」などと機嫌をとっていた。そんな付け焼き刃の努力も虚しく、シニア2名を置き去りに彼はひょいひょい進んで稼いだ時間で韓国のハイカーとお友達になっていった。

九峰山という今回の最高地点に辿り着くと、もう残りのライフ1といった気分。ところがこの山、九峰と名の付く様に残り8つのピークがあるのだ。しんどい、しんどすぎる。とりあえず、ボスに九峰山への登頂を報告すると、クノールに「1人までなら姥捨山してもOK」という謎の指令が飛んできて、シニア2名はさらに震え上がることになる。

冷たいボスと、暖かい韓国のハイカー

ボスからのとんでも指令で関係の冷え切った3人組は、ギクシャクしながらもアップダウンを繰り返し、ライフを削っていた。そんな時、決まって韓国のハイカーが「ファイティン!」と声をかけてくれる。スナックを分けてくれたり、あと○キロで頂上だよと教えてくれるハイカーもいた。言葉が通じなくても、同じゴールへ向かう仲間だからこそ、励まし合って進んでいく。「日本からきたの?僕たちは3回目だよ。この道しんどいね。」なんて話しながら、ゆっくり歩いていく。

ブライアンさんは別名ブリッジシェイキングの異名を持つ男。高さ約50mほどの吊り橋で急に大ジャンプを繰り出し、他のハイカー達に怒られるというお調子もの。シニア2名があまりにも遅く、クノールが昼寝をしていたら、いつのまにか追い越してしまった時にも、どこにいるのか教えてくれた。

ギボムさんはソウルで古着のセレクトショップの店長をしている若干27歳。韓国のジェルとお菓子を分けてくれた。その後少し一緒に歩きながら、韓国のハイカーの買い物事情や古着の仕入れ方などを話してくれた。

OTTが愛される理由

理由① ハイカーの友達ができる

登山仲間を作るのは、なかなか難しい。山岳会やサークルに入っていれば別だが、こういうハイカーが何百人も集まる機会があると、自分と同じ趣味の友達を作れて良いなと思った。1人で参加したけど、イベントで友達になったという人を何人も会場で見かけた。それに参加者が若い!30代がボリュームという感じだ。日本だと同じ世代のハイカーにこんなに多く会える場所は無いので新鮮だった。

理由② 達成感を味わえる

このイベントはレースではない。だからこそ順位より、みんなで完走することが目標になる。それに、ただ歩くだけでなく、各CPでスタンプを押していく。これがなかなか凝っていて、スタンプを集めるとゴールが近づいている気がして楽しいのだ。ちゃんとCPの場所が近づくとスタンプを押せるようになる仕様でイカサマはできない。全て押すと、最後に完走バッジがもらえる。ハイカー達は、この完走バッジを集めるために歩いているのだ。

理由③ エイドが充実

エイドでは焼きたてのクレープとホットコーヒーが無料で頂ける。これが本当に美味しくて、涙が出そうになった。さらにキャンプ地では、OTTオリジナルビールとレトルトのビビンバ、New Balanceのソックス、りんごジュース、参加Tシャツなどをもらった。食料を持ってこなくて良かったのではと思うほど。その場で消費しないと荷物になるので、加味したパッキングがおすすめ。

青年に翼を授ける

さてOTTの体験記に戻ろう。私たちは関門エイドに17時過ぎに入った。エイドで新藤さんと私はリタイヤすることにした。というのも激のぼりと階段地獄を経験し、もうシニア2名の心は折れていた。完走バッジは元気な青年に託して、私たちは敗北感を胸にDAY 1を終えることになった。

ちなみに重荷を捨てて(姥捨てを完了して)、翼の生えた青年(最年少クノール)は、コースタイムの0.6ほどで残りの15kmを歩ききり、颯爽とゴール。圧倒的な体力の差を見せつけた。ひとりの方が楽しそうなのは気のせいか。友達もたくさん作って帰ってきた。

キャンプ地ではすでに宴会が始まり、韓国式の飲み会が繰り広げられていた。一緒に歩いた仲間を讃えたり、新しい友情に乾杯したり。定番のサムギョプサルやラーメンを食べているグループもあれば、キャンプ場が市街地にあるため、ペダル(韓国版ウーバーイーツ)を頼んだり、近くのレストランでテイクアウトしたりなんてのも可能。昼は苦しんだ分、夜は担いだ酒や肉を食べて何度も乾杯していた。DAY 1のゴールは夜中の12時近くまで続き、その度にスタッフが完走者を迎えていたのが丁寧で良かった。

おもてなしは最後まで

翌朝は9時から大抽選会が始まった。これがまた破格の抽選会で、ビブナンバーで呼ばれるとNew BalanceのシューズやCAYLのバックパックなど(スポンサー企業)の商品がもらえる!この抽選会ももちろん全て韓国語なので、近くの英語のわかるハイカーに番号が呼ばれてないか確認してもらった。豪華景品に参加者は大盛り上がりで、朝からテンションマックスでDAY 2がスタートする。

DAY 2はチーム揃って3人でゴールまでの16kmを歩いた。最終日はピークも一回だけなのでゆっくり、他の参加者たちとお喋りしながら穏やかな里山のトレイルを歩いた。ゴールする頃には雨が降っていたが、スタッフの方全員が迎えてくれて、最後まで楽しくイベントを終えることができた。

主催のBetter Weekendは韓国のアウトドアWEBメディアでアクティビティ紹介やギアのレビューなどを行なっている。OTTは代表のカン・スンヒさんとお姉さんのカン・ヒジュンさんが中心になって作りあげている。Better Weekendのスタッフだけでなく、ULギアブランドやアウトドアコミュニティを代表するメンバー達がボランティアで参加し熱くて暖かい空間を作り上げているのが印象的だった。

また今回本当にお世話になったのはCAYLチーム。左からサンユンさん、スジョンさん、代表のリーさん、パートナーさんのキムさん。CAYLはご存知の通り、韓国でもっともイケてるULブランドで日本でも多くのハイカーがウエアやバックパックを使っている。代表のリーさんには、今回のOTTの申し込みをしてもらったり、イベント参加に関する相談、ガス缶の手配、さらにはソウルからの往復運転を一手に引き受けてくれた。イベントボランティアもやって疲れているはずなのに、最後まで笑顔で優しすぎる。

OTTを攻略するには?

ポイント1

OTTを完走するには、「オンタイムで発表される情報についていくこと」が非常に重要だ。OTTはイベント情報が、少しずつ出されていくのだ。開催の発表が3ヶ月前にあり、その後開催地の発表が1ヶ月半前にある。開催5日前にエレベーションチャートが公開され、マップは当日に渡される。OTTのホームページやインスタはすべて韓国語だ。だから外国人にとっては少しハードルが高いが、それでもGoogle翻訳を通せば、十分理解できる。例えば、キャンプ地では全員にレトルトやビールが配られることや、商店やレストランがあり、利用しても良いとの記載があった。こういう情報をよく読んでおけば、荷物をさらに減らせて身軽に歩けたはずだ。

ポイント2

もうひとつのポイントは「カットタイム内にエイドに入ること」。DAY1のエイドでは関門時間が存在する。当日渡されるマップには常に残り時間が表示されるようになっているので、残りの距離と時間を計算して、間に合うように歩こう。また、コースタイムを縮めるのに階段練がおすすめだ。韓国のトレイルは大なり小なり、階段が多く存在する。低い山でも日本の里山歩きとは異なり、日本以上の急登と階段が待ち受けている。OTTは毎回開催場所が変更されるが、毎年それなりの強度の高いコースが組まれているので、階段練をして体力と膝の筋肉を増強しておこう。

ポイント3

「簡単な韓国語を覚えていくこと」もハイカーと早く仲良くなるコツ。挨拶やありがとうのほかに、「とても疲れたよ」とか「楽しかったよ」などを韓国語で言うと、すぐに距離を縮めて話してくれた。どこの国に旅しても、その国の言葉でお礼を言ったり、その土地の文化を一緒に体験することが、一番早く友達になる近道だ。

ずっと憧れていたイベントに参加することができて、最高の体験だった。DNFしたのは残念だったが、それ以上に韓国のハイカーと友達になれたのが嬉しかった。きつい登りを抜かし抜かされつつしたハイカーとゴールを分かち合えた瞬間は、言葉の壁を超えて達成感が込み上げた。

さあ、次こそは、完走目指してOTTへ行くぞー!階段練を今から頑張るぞ。