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僕とRUSH と100マイル|レースレポ番外編(若岡拓也)
いよいよ2023年4月中旬に発売を控えた新RUSHシリーズ。そのRUSH 11Rを背負い、2023年3月11〜12日に開催された「球磨川リバイバルトレイル」に参加したRUSHランナー・若岡拓也さんからレースレポートが届きました!
入念な準備よりも必要なのは忘却力だった
ランニングレースは残酷だ。始まる前から結果は決まっている。 準備が9割。本番では準備してきたことを淡々と進めるだけである。
どれだけトレーニングを重ねるか。体調を整えるか。装備を自分に合ったものにするか。スタートを切る瞬間までが勝負である。その意味では、「球磨川リバイバルトレイル」の100マイルは散々だった。トレーニングはそれなり。寒い時期は例年ならサボりがちだったが、100マイルという目標を掲げてコンスタントに走れた。
問題は残りの2つ。忘れっぽい性格が仇になった。 体調自体はそれほど悪くなかったものの、直前になって思い出した。花粉症なのだ。 ここ数年、花粉が少なくてすっかり忘れていた。スギが憎くなる季節である。この時期に杉林の中を走るのは、おそるべき苦行を自分に課しているようなものだ。
開催された3月11日は、折しも10年に1度というレベルでスギ花粉が大飛散。顔面は大悲惨。目がかゆくて開けられない。鼻水は滝のように流れてくる。喉の奥もかゆく、精神的にもシンドい。
もはやザルである。加えて、装備も穴だらけ。トレラン用のポール、ソフトフラスク1本、サプリを忘れていた。恥ずかしながら入念に準備をしたつもりだった。直前に到着して、慌てることがないようにと大会1週間前から球磨川流域に滞在していたのに、なんたることだ。
直前に装備を確認して自分自身のうかつさに驚いた。しかし、足りないものは仕方がない。ポール、サプリは必携ではないからスルー。自前の足で頑張る。ソフトフラスクの代わりはペットボトル。愛用の「いろはす」である。これしきのアクシデントで動揺していては100マイルは乗り切れない。ちょっとした問題など忘れてしまうに限る。
球磨川リバイバルトレイル:球磨川の原流域から河口までをたどる九州エリア初の100マイルレース。2020年に球磨川流域を襲った豪雨災害からの復興を目指すプロジェクトとして企画された。球磨川コースは全長172キロ、獲得標高9,000メートル強を誇る。八代市、五木村、山江村、球磨村、水上村の特産物をふんだんに使ったエイドステーション、選手全員へのGPS端末「IBUKI」の貸与、各自治体の名産品の詰まった参加賞、行政と民間団体で連携して安全管理を徹底しているなどサポートが充実していることでも知られる。源流から河口まで、球磨川の始まりと終わりを見届けるトレイルジャーニーを通して、人と自然の関わりを見つめ直し、被災地の復興を後押しする。
自然の強さと大会関係者の熱意を感じながら走る
スタートしてからは、マイペースを貫く。序盤からトップを走る2人、優勝した判田誠太さん、2018年ハセツネ王者の三浦裕一さんを早々に見送り、近くにRUSHランナーの佃直樹さんを見ながら、九州脊梁山地をたどる。
九州在住であっても気軽に入ることのできない山域だ。背骨のように南北に伸びた分水嶺であり、奥深い山なうえに、毎年のように災害でアクセスできる登山口、登山道が変わってしまう。
そして分水嶺のため水場が少なく、一気に縦走するのは容易ではない。
そんなコースをスタート直後からたどれる。幸せな前半戦である。落ち葉の敷き詰められたフカフカのトレイル。コケにびっしりと覆われた倒木、巨木が点在する自然林。足を止めてしまいたくなる景色を駆け抜ける。
中盤からはコースレイアウトの変更を身をもって感じる。2年前に大会側に頼まれて試走していたこともあり、余計に変化を痛感した。ドロップバッグのあるA3からのロードが短縮されて直登に。新しいトレイル区間ができていた。そして、想定した以上にキツい登りだった。
大雨で崩れたロード区間は迂回して、山のパートが追加された。ここは直前にコース整備を手伝っていたこともあり、ゼロから開拓したルートだと知っていた。多くのランナーが夜間に通過するエリアであり、暗闇の中では最近までトレイルがなかったとは気づけない。
よくぞ10kmにわたってキレイに切り開いたものだ。そこには、大会を成功させようとする熱量が込められていた。エイドやコース上での温かな応援も含めて、ありがたいことだ。前半で調子に乗っていたせいで、110〜120kmほどで失速。順位を1つ落としたものの、この熱量に突き動かされて進んでいく。水害からの復興を目指した大会名「リバイバル」と同様に、ランナーも復活するのだ。
最後のエイドでスパイスカレーとポトフを食べる。150km走って飢餓状態でなくとも絶品。前年、スタッフとして参加していた時に、こっそりつまみ食いして、次はランナーとして食べに来ようと決めていた。
空腹は最高のスパイス。おいしくないわけがない。あっという間に完食。ごちそうさまでした。おかわりしようかを真剣に迷う。その瞬間を知り合いに見られていたらしく、後日、珍しく真剣な表情だったと言われてしまった。おかわりすると満足してリタイアしそうなので、断腸の思いで腰を上げる。1年に1回しか食べられないから余計においしいのかもしれない。
満腹感で動きながら寝落ちしつつ、なんとかゴール。走り終わるとキツかったことは忘却の彼方へ。いろんなことを忘れて生きているのだ。とはいえ、次こそはしっかりと準備しよう。反省しつつ、誓ったものの、次まで覚えていられる自信はない。きっと次のレースで忘れていたことを思い出し、また反省するのだ。
気心知れた相棒のようなRUSH 11R
フロントポケットの容量が増えて、行動食を多く持てるようになった。助かる。反面、シリアルバーやジェルの袋が腕に当たる。入れすぎは禁物。パッケージの角を落としておけばよかった。
前述の通り、ソフトフラスクを忘れてペットボトルを使用した。感覚的なものだが、UTのころよりも圧迫感がなく、収まりがいい。図らずも、ペットボトルを試すことができてよかった。忘却力に感謝である。
忘れてしまって後悔したのがトレランポール。激登りに差し掛かるたびに、ポールがあれば、もっと快適なのにと思ってしまった。まだまだ修行が足りない。
下りの林道では、気持ちよく駆け抜けられた。ザックの揺れはほとんど感じられない。サイドポケットにあるドローコードを引くことで、体に密着させることができるからだ。
ややタイトに絞ると、ザックとの一体感がグッと増す。下り終えて、平坦な道になってきたところでコードを少し緩めると、緊張も解ける。気持ちを切り替えるスイッチにもなっていたのだ。
ずっと緊張しっぱなし、集中したままいるには100マイルは長すぎる。気持ちのメリハリをつけた方がいい。意図して制作されたのかは分からないが、オン、オフを分かりやすく意識する上でも、ザックのホールド感を変えるのは効果的だった。
UTシリーズからの大きな変化は、肩回りの当たりとフィット感。素材がより柔らかくなり、背負い心地がさらに良くなった。古くからの友人のように肌になじむ。 肌への当たり方は短時間ならば、さほど気にならないし、小さな違いに思えるかもしれない。けれども、100マイルレースのように、長時間ずっと背負っていると、大きな差になってくる。
長旅をするなら、仲の良い友人と一緒に行く方がいい。違いの関係がぎこちないと、摩擦が生まれて後々にトラブルが起きるかもしれない。気心の知れた関係性を築けるかは大切である。
その点、11Rはしなやかですぐにフィットしてくれた。これから長い時間を一緒に過ごしてくれる相棒になりそうだ。