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CARGO55 × パックラフト in 四万十川
最後の清流・四万十川
「旅がしたいよね」。そんな一言からはじまった2023年の夏。それもそうだ。流行病のせいですっかり「旅」というものを忘れかけていた。地図とにらめっこをしながらルートを考え、体力と相談して幕営地を決め、計算しつつもざっくりと食料を担ぎ、未だ見ぬ景色に出会う。もちろん、気心の知れた仲間と一緒に。
そんな旅らしい旅がしてみたい。「山もいいけれど、夏ならやっぱり川じゃない? ドボンしたいじゃん」と、無数に湧き出る候補のなかから川旅がトップに躍り出る。「やっぱり北海道かな。でも、ど定番だけど四万十なんてどう?」「パックラフトでね。パーゴらしい旅ができそう」。ということで、今回のジャーナルは「四万十の川旅」。日程を早々に固め、俄然盛り上がるクルー。しかし、予想だにしない出来事が我々を待ち受けているとは知らずに——。
さくぽん(佐久間亮介)
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ライター、モデル、キャンプコーディネーター。初心者向けのキャンプ総合情報ブログ、「Hyper Camp Creators」の開設者で、現在は北軽井沢に移住し、「-be-北軽井沢キャンプフィールド」を運営。キャンプを主軸に雑誌ウェブメディアでの執筆やアウトドアブランドのモデル、企業やキャンプ場のイベントやコンテンツ企画などを行うキャンプコーディネーターとしても活躍中。
IG:sakupon.campl
クノール
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パーゴワークスのアルバイトスタッフ。パーゴマガジン「謎BUDDY×バックカントリースキー in 白馬乗鞍」で初登場後、PR・広報を中心に奮闘中。アドベンチャーレースの経歴を活かし、登山、MTBから水物までこなすオールラウンダー。パーゴに入ってから雪山も始め、フィールドを広げている。CARGO55は好きなものを好きなだけ積めるので、旅行から登山まで多くのシーンで愛用している。
四万十川を上流から降ってみた、的なプラン
計画はこうだ。全長196kmにも及ぶ四万十川の全流域を体感すべく、上流部の大野見エリアからエントリーし、1日約50kmほどを漕ぎ、河原でキャンプをしながら3〜4日で河口域に到達するという壮大なプラン。ちなみに、四万十川が日本最後の清流と呼ばれる所以は、堰堤はあるものの大規模なダムがないことによる。人工物の少ない自然度の高い景観に加え、川周辺の山々を生息地とする生き物も多く残る。まさに手付かずの自然が残っている日本最後の川なのだ。
DAY 1〜2:2023年、夏、高知、龍馬
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クルーは成田空港発のJETSTAR GK423便で高知龍馬空港へ。駅前の安宿に転がり込み、景気付けにカツオのタタキをたらふく味わいビールで酩酊し、宿でパッキングを整えて就寝。翌朝はカヤックのエントリーポイントとなる大野見地区の天満宮キャンプ場を目指し、高知駅発の鈍行列車に乗り込んだ。
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学生がひしめく列車でいささか肩身の狭い思いをしながら目的地へと向かう平日の朝。ディーゼルエンジンの音が心地よく、眠気を誘う。景色は次第に緑色の比率を増し、気づけば山奥の無人駅。賑やか車内が嘘だったかのように、大きな荷物を抱えた我々だけがポツンとホームに立っていた。
川下りの起点となる天満宮キャンプ場まで、東京を出てから2日。もっと効率的なアクセス方法がありそうだが、起点と終点が異なる川旅では公共交通機関を活用するほかない。しかし、はじめて名を聞くローカル線や乗客がまばらな小型バスに揺られる時間も悪くない。スローに移り変わっていく景色を眺めながら「いやはや、旅がはじまってしまったな」とつぶやく。
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キャンプサイトへ向かう道すがら、四万十川を橋の上から「目視」。Google mapの空撮地図を見る限りではなかなか判断しにくかった渓相。パックラフトが航行できる水量があるかどうかが、最大の懸念点だったのだ。「結構行けそうなんじゃない?」というのが目視しての所感。多少ポーテージはあれど、降っていけそう。そんな安堵感を抱きつつ、雨に濡れたキャンプ場へとつづく道を歩いていく。
なお、天気は雨。しっかりした東屋があったのでぜいたくに使わせてもらうことに。潤沢な食材で夕暮れ前から宴会をはじめ、翌日からの川下りに備え、就寝した。
DAY 3:待ちに待ったエントリー、そして堰堤
朝7時。朝靄に差す朝日が織りなす幻想的な風景のなか、ざぶざぶと川に入っていく。ひんやりと心地よい水温。担いできた装備を河原でパックラフトに括りつけ待ちに待ったエントリー。目指すは約50km先のキャンプ想定地。数日分の食料と野営道具を満載にしたパックラフトの安定感を確かめ、漕ぎ出していく。ついに四万十川を下るのだ。そんな高揚感に包まれてスタートを切った。
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四万十川は美しい。漕ぎはじめてすぐに、この川が「日本最後の清流」と呼ばれている理由を実感した。川底の魚が見えるほど透き通る水、道路沿いとはいえ人工物がほとんど見えない秘境感、心地よく蛇行するダイナミックな渓相。聞こえるのは鳥の鳴き声と風の音、そしてパドルが水を切る音だけだけだ。
しかし、当初から懸念していたポーテージの連続は予想以上。おだやかな淵のあとには、必ずと言っていいほど堰堤か瀬が待ち受けていた。多少の瀬であればそのまま下ることができたが、難所では荷物を外して背負い、パックラフトを抱えてクリアする必要がある。「行けなくはない」のだが、早くも予定の50kmの航行は現実的ではないことを知る。
ともあれ、あまり情報のなかった川の上流部は、めまぐるしく変化する景観が我々を楽しませてくれた。翻弄されたと言っても過言ではないが、そのギャップが楽しかったのだ。川のカーブの先がどうなっているのか。瀬から響く水音が航行できる瀬なのか堰堤なのか。つねにドキドキしながらパドルを漕いでいた。
焚き火を熾そう、飯を食らおう! 漕ぐだけが川旅じゃない
当初の目的地まで辿り着くのは難しいと判断し、堰堤を越えたところの河原で幕営することに。沈下橋を望む、いかにも四万十川らしい景観。焚き火を熾し、食事の準備に取り掛かる。ああ、腹が減った!
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買ってきた食材は、「高知らしいもの」ということで、カツオ三昧。駅やスーパー、お土産物売り場では、常温で保存できるカツオの加工品がたくさん売っている。「ハランボ」と呼ばれる腹下の部分など、ふだん目にしない食材も多く、買い出しは大きな楽しみとなっていた。
メインメニューは、ハランボの焼き、そして炊いた米にカツオの身をほぐしてまぜたものを。ネギと刻んだ生姜の薬味をたっぷりと乗せて完成。米はもちろん生米。浄水することで豊富な水を活用できるのは川旅のいいところ。アルファ米よりも断然おいしいし、コスト的にもメリットがある。「TRAILPOT」の焦げつきにくさも、米を炊くハードルをだいぶ下げているのではないだろうか。3合程度であればなんなく炊ける容量もパーティでの調理での実用性につながっている。
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さくぽんとクノールのギアリスト
ここで恒例のギア紹介。それぞれ「NINJA SHELTER」と「NINJA TARP」というPAAGOWORKSを代表する野営ギアを中心に、長期の川旅を支える装備をセレクト。
さくぽん:快適な居住空間を備えた秘密基地
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さくぽんは「NINJA SHELTER」を。パックラフトがまるっと入るサイズ感で、装備が多い川旅にはこの「収納力」が活きてくる。
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NINJA FIRESTAND SOLO/ノコギリ/チタンスキットル/チタンマグカップ/カツオ/ご当地インスタント麺/浄水器/TRAIL POT/レギュレーターストーブ
チタンスキットルはロマン装備。川原で一杯やるのが好きで、川旅の必需品となっている。
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シュラフカバー/シュラフ/マット チッパーワビサビ/パックラフト/カーボンパドル4P
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クノール:開放感のあるタープスタイル
一方、クノールは「NINJA TARP」で。開放感のあるタープは夏の川旅らしい定番スタイル。流木やパドルを活用すれば、ポールなしで張ることができる。470gという軽さも魅力で、移動が多い旅の装備の軽量化に貢献してくれる。
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NINJA TARP/パドル/パックラフト/PFD
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Warm Light/浄水器/TRAIL POT/レギュレーターストーブ/スナップフォールドボウル/OPINEL NO.8/チタンマグカップ/シュラフカバー/W-FACE P2
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着替え/レインウェア/防寒具/グローブ/ハット/日焼け止め/ワセリン/エマージェンシーキット
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DAY 4:プラン変更と移動、停滞
日の出とともに起床し、そうめんを作る。今回の四万十川の旅の定番となりつつある、たっぷり薬味でさっぱりと仕上げた。ちなみに、昨晩は焚き火を囲みながら、この先のルートを議論。当初予定していた上流部の航行が堰堤と瀬の連続で思いの外時間がかかるため、下流まで到達できない可能性が高まっていた。さらに降雨予報もあたっため安全を考慮し、途中の区間をスキップし確実に航行できるエリアまで移動することを決定。
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ふたたびパッキングをまとめ「CARGO 55」に積載。村のはずれにあるバス停から最寄りの窪川駅へと移動し、列車で中村駅へ。そこからバスで「四万十カヌーとキャンプの里かわらっこ」へ。予期せぬ移動のみの1日となった。
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しかし、この「臨機応変な移動」こそ旅的ではないだろうか。「よくわからないけれど、行ってみよう」。そんなノリで飛び込んでいくことの楽しさをあらためて感じていた。もちろん、行程を検討するためにバスの時刻を調べたり、エントリーポイントを探す手間はある。
しかし、そんな作業をしているうちに土地の解像度が上がっていく。我々の旅は、全行程を下り切ることよりも、「旅」を楽しむことにある。少し強がりかもしれないが、「荷物をまとめて背負って移動する」ことが可能であれば、四万十川に限らず、日本のみならず世界中の自然を旅できるのではないだろうか。
過ぎていく日々。それでも腹は減る
予報が的中し、昼過ぎからポツポツと降り出した雨を電車のなかでやりすごし、「四万十カヌーとキャンプの里かわらっこ」のキャンプ場へ。平日ゆえか、利用者は我々のみ。河原のすぐ近くのサイトを借り、早くも最後の晩餐をはじめる。実は途中経由した中村駅での待ち時間にスーパーまで足を伸ばし、カツオを手に入れていたのだ。保冷のために氷をたっぷりと詰め込み、焚き火で「タタキ」をつくる。すっかり食べてばかりの旅となりつつあるが、これ以上贅沢な時間の使い方はないだろう。
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焚き火の火力は最大に。藁は持ち合わせていないので、苦し紛れに枯れ草を代用。カツオのサクに真っ赤に燃えた薪から立ち上る炎と煙をこれでもかと浴びせまくる。程よく焦げ目がついたら、いつもの薬味にニンニクのスライスを追加して、カツオのタタキ四万十川仕様が完成。長旅と移動の疲れがぶっ飛ぶ、最高のアウトドア飯だ。
おいしいカツオは、高知のお店にいけばいくらでも食べられるだろう。新鮮さ、調理方法、味付け。どれをとっても、素人が野外で作ったものは敵いやしない。そんなことはわかっていても、このシチュエーションで食う雑なタタキの味は何にも代え難く、記憶に残るものだった。
上流部振り返り
さくぽん:雨量が多かったのか、瀬がたくさんあって大満足! ポーテージがいくつもあったので、パッキングは検討・改善の余地あり。CARGO55の良さをいかしたパッキングを実践すれば、もっと楽にポーテージができたなぁと反省。リスクヘッジを考えすぎて荷物が増えてしまったのも反省点。ようやくたどりついたキャンプ地での焚き火&高知メシは至高です。ノリと勢いで作ったカツオのたたきをビールと地酒(ダバダ火振)で流し込み、流木でする焚き火に癒やされ眠りにつく。あ〜、今すぐ高知に戻りたい。
クノール:上流部では大自然に「遊ばれた」という方が的確です。瀬を前に、イケるじゃんと思った次の瞬間にはひっくり返される、ついでに愛用していたカメラとスマホを水没させ、記録と連絡の手段を失いました。おかげで、絶望の淵にありながら自然の中を楽しむことに没頭することができました。雑草に炙られるカツオに、リベンジを誓いました。
DAY 5:四万十川のゴールデンコースを漕ぐ
旅のフィナーレが近づいている。川面はおだやかで、まさしく「メロウ」という言葉がしっくりくる感じ。水の透明度は相変わらず、川底までクリアに見えている。ここから数km先は、四万十川らしい景色を堪能しつつ河口近くのゴールを目指して漕いでいく。
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上流部でのポーテージを思い出すとバカバカしくて笑ってしまうほどの心地よさ。穏やかなようでも流れのスピードはそこそこあり、頑張って漕がずにサボっていても確実に進んでいく。周囲は山並みに囲まれてはいるものの、これこそが四万十川らしい悠々とした景観なのかと納得。川下りの聖地とされるのも頷ける。
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濃い緑の森を左右に見ながらカヤックを流れに乗せていると、四万十川名物の沈下橋を発見。四万十川には本流に22もの沈下橋があるそうだ。趣のある高瀬橋で、カヤックを係留し、欄干へ。四万十川に来たらやってみたかったことのひとつ「ドボン」。水深を確認して飛び込んでみる。一度では満足せず、もう一度、こんどは飛距離を楽しんでみる。クールダウンにちょうどいい水温。なにより水が綺麗なのが嬉しい。
下流部振り返り
さくぽん:「これぞ、四万十川!」といえるような、穏やかで清く美しい川を堪能。普段なかなか味わえない沈下橋の下をくぐる体験に心が踊りました。下流にいくにつれ人の営みに徐々に近づいていく感覚がありました。釣りをする地域住民、旅行で四万十川を楽しみにきた人、アテンドするアウトドアガイド、それぞれの川との関わり方がある。ここに住む人々の日常と自分の非日常が交差する瞬間がなんともえいない「旅感」に繋がりました。飛び込みは、夏休みといえばこれだよね〜と何度か楽しみ、心は少年のそれそのもの。最高です。
クノール:下流域のハイライトはやはり飛び込み。事前情報では充分な水深であることはわかっていました。しかし、橋の上から見ると「え、透明すぎて水深わかんないんだけど。」と完全に目が騙されてしまいます。意を決して飛び込むと、上から見た印象以上に深い川に抱かれ、水面に浮かぶまでには思っていた以上に時間がかかりました。間違いなく旅の中で最も自由で、夢中になっていた瞬間です。
四万十の流れとともに旅のゴールへ
地図上のGPSデータで、河口まであとわずかだと知る。まだ四万十の流れを感じていたい。そんな名残惜しさを感じつつ最終セクションへ。
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旅の終わりは渡川橋。河口そのものはまだ数キロ先ではあるが、駅へと戻るための移動を考慮し、中村駅に近い河原をゴールとした。予期せぬポーテージ、プラン変更にともなう大移動があったものの、最終日は四万十川らしさを存分に味わうことができた。装備を片付け移動仕様に整えながら、下流まで透明度を失わない四万十川の美しさをあらためて噛み締めていた。
泣く泣く途中の区間をスキップすることを選択したが、情報の少ない上流部を漕いでみて感じたのは、まぎれもなく純粋な冒険だった。あらゆる情報がインターネット上にあふれる今においても、行ってみなければわからないもの、感じられないものはまだまだある。
山行記録やルポを見て同じ行程をなぞることを否定するわけではないけれど、地図を見ながら自分だけのルートを引いてみることで得られる体験は素晴らしい。期待と不安、そして達成感。これこそが、アウトドアアクティビティの醍醐味なのではないだろうか。当初の予定の四万十川を上流から降るという目的は達成できなかったが、夏の思い出として心に残りつづけることは間違いない。
とはいえ実際に航行した地図を見返すと、「全然漕いでないじゃん!」と愕然とする。まだまだ課題はあれど、その分楽しみは残っている。クルー一同再訪を誓い、高知を後にしたのだった。
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旅を振り返って
さくぽん:当初、この計画を聞いたとき旅程の大胆さに「......いけるのか??」と不安が募りました。しかしながら、パックラフトを全国で楽しんでいる身として、憧れの四万十川をキャンプしながらくだれるチャンスはそうそうないとチャレンジを決意。ときに「チン」しながら、ほどよい瀬とトロ場、そして、自分がくだってきた中では最も透明度の高い水に驚きながら、日本最後の清流を存分に楽しみました。残念ながら計画通りには進みませんでしたが、それもまた旅でしょう。実際にチャレンジしてみて感じたのは「この計画は達成できる」ということ。途中で出会った地元のガイドさんいわく、水の透明度は6割くらいらしい。魚が無数に見られるほど透き通っていたのにまだきれいになるのか......。ガイドさんおすすめの秋に、再チャレンジすることを心に誓いました。
クノール:見切り発車という言葉がこの上なく似合う旅だったと思います。川下り×キャンプってなんか自由でロマンじゃん?やるなら綺麗で長い川を全通ししたいよね。という理想だけを計画に詰め込み、玉砕しました。計画を立てている時から、何かがおかしいな、とは思っていました。最上流域の川下りに関する情報があまりに少なかったのです。しかしそこはロマンを優先しました。エスケープの手段だけ確保して強行突破を試みました。その判断をしたことで、美しくも激しい秘境に心身をボッコボコにされることができました。愛用するカメラを水没させたことで、より自然の流れに身を任せることに集中することができました。強行突破はできませんでしたが、結果としては四万十川のオイシイところを凝縮できたんじゃないかと思います。
CARGO55
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今回のような情報の少なかったり、天候が読めない場所を旅する時に、「臨機応変な移動」は不可欠。そんな移動を可能にしたのがCARGO 55だった。堤防や難所の度にポーテージしたり、エントリーの場所を変更して公共交通機関を利用する時など、予定を変更して、さっとパッキングして次の目的地に向かうのに実に便利だった。CARGO 55はユニークな背負子型のバックパック。独自のフロントパネル方式のFLEX-PACKING構造により、大きさや長さがまちまちの遊び道具を積載するのに便利。キャンプギアはもちろん、スノーシューやヘルメットなど収まりにくい形をしたものや、今回のパドルのような長モノも難なくパッキングできる。容量の調整幅も大きく、付属のインナーバッグをドライバッグで代用すれば荷物の増減が多いウォータースポーツにも対応可能だ。