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RUSH30八ケ岳ファストパッキング
2020.12.04 ACTIVITY

RUSH30八ケ岳ファストパッキング

トレイルランニングを中心とした、アグレッシブなアウトドアアクティビティをターゲットに開発されたRUSHシリーズ。どのモデルにも共通するのが、走りを妨げない高重心、背中に張り付くような優れたフィット感。そんなRUSHらしさを備えながらも、オーバーナイトでの幕営や小屋泊装備の携行に対応する容量を備えたモデルが「RUSH 30」だ。

ロゲイニング、アドベンチャーレースなどで見かけることも多いモデルなのだが、「RUSH 30」の機能性と荷物収納量に着目し、トレイルランニングの要素を登山に応用したファストパッキングの楽しみ方、さらにはランを楽しんでいるRUSHシリーズユーザーや登山文化に馴染みのないトレイルランナーに、登山の魅力を伝えたいと考えた。

そこで、本記事では「RUSH 30」を使い、「トレイルランナー」が「オーバーナイト」で「八ヶ岳」を「縦走」する、軽快で機動力のあるファストパッキングの可能性についてお届けしたいと思う。

結論としては、「めちゃくちゃ楽しい!」である。

「RUSH 30」と、今回の企画のコンセプト

あらためて、今回取り上げるバックパックは「RUSH 30」。「RUSH シリーズ」のなかでも最大容量の30リットルを誇り、シーズンによっては野営ギアの携行にも対応する。

詳しくは、製品ページ(現在はリニューアルモデルを販売中)を見ていただきたいのだが、「RUSH 30」はトレイルランニングをベースに開発されたシリーズということもあり、特徴的な機能がいくつも採用されている。

・アクティブな山行、ランで揺れを抑える高重心設計
・2点留めバックルで安定感の高い幅広のショルダーハーネス
・ボトルやジェル類を収納できる左右2つずつのショルダーポケット
・メッシュ素材の大容量トップポケット
・少ないアクションでコンパートメントにアクセスできる設計、などなど

「RUSH 30」は、「走る」という行為を支える設計と機能を備えながらも、容量を大きくすることでアクティビティの幅を広げてくれるアイテムだと考えてほしい。

ちなみに、トレイルランニングで考えればかなり「大きい」容量だが、一方、登山ではいわゆるデイパックのサイズ感で小さめの部類に入る。装備を極力削って最小限にすることで体への負荷を減らしたいトレイルランニングと、防寒着や食糧などの山での安全を担保するギアや娯楽的要素も多い登山では、そもそもバックパックに対する目的が異なる(もちろん荷物多めのランナーもいるだろうし、軽量化を突き詰めたハイカーもいるだろうけれど)。

しかし、ランナーとハイカーがクロスオーバーする領域(=ファストパッキング)で考えてみると、「RUSH 30」には大きな可能性があるように思うのだが、いかがだろうか。

本記事の対象は、「RUSHシリーズ」を使っていて登山にも興味があるトレイルランニングが中心ではあるが、オーソドックスなスタイルで登山を楽しんでいるが軽量化して負荷を減らして挑みたい、登山に少しランの要素を入れて行動範囲を広げたいというような方も該当するだろう。上記図の、重なる部分をイメージしてみてほしい。

少しくどい説明になってしまったが、「RUSH 30」の機動力と軽量性、汎用性のある容量は、登山をより軽快に、楽しくしてくれるはず、ということを伝えたいのである。

山行ルートを検討する

ある程度山行距離があり、フィールドのバリエーションも豊か、かつ山域としてメジャーなところという条件でルートを検討した結果、八ヶ岳連峰が最終候補に。ゆるやかな北八ヶ岳から岩場が多く峻険な南八ヶ岳までをつなげる縦走コースを組んだ。

宿泊は、山行時期が晩秋~初冬ということもあり小屋泊を選択。夏場であればシェルター泊も可能だが、トレイルランナーにはなかなか馴染みのない「山小屋泊」も体験プランに組み込んでみた。

コースタイムに関しては、山と高原地図に記載されているもの、の7割ほどを目標とした。ランナー目線ではもうちょっと早くできそうだが、無理なく登山を楽しむことを重視している。

八ヶ岳は南北に長い山脈だ。IN/OUTを同じ登山口にするループコースもあるが、短くなってしまうため、麦草峠からスタートし、中山、天狗岳、根石岳、硫黄岳を経由し、赤岳鉱泉に宿泊、翌日は赤岳に上がり、阿弥陀岳をまわって行者小屋経由で美濃戸登山口へと降りる、南北を縦走するコース設定とした。

*実のところは南八ヶ岳の天女山からスタートするコースを検討していたのだが、山行前に降雪があり、ルートの状況が読めなかったため、通行困難箇所が少ないであろう北八ヶ岳から入山するルートに落ち着いた。また、危険箇所のある横岳〜赤岳の通行は避けている。

多少テクニカルな部分もあるが、山小屋を利用するなど無理をしないのもポイントとなっており、多くの人が挑戦できるルートになっていると思う。レポートでも改めて詳述するが、降雪により難易度、危険度が変わるため、入山時の状況や現場での判断を慎重に行っていただきたい。

トレイルランナー、山へ

今回山行に協力してくれたのが、トレイルランナーの染谷英輝さん。2012年にトレイルランニングをはじめ、ITJ(伊豆トレイルジャーニー)、ART(阿蘇ラウンドトレイル)、OSJ KOUMI 100などの国内レースの他、TDS2019といった海外レースにも出場。ただ、トレイルラン、山岳レースの経験は豊富だが、いわゆる「登山」は範疇外で、山小屋泊もはじめてだそう。ランナーにとっては少しとっつきにくい登山文化を知るきっかけになるのではと、協力してくれた。

「RUSH 30」の装備リスト

装備リストがこちら。直前の天気予報では、1日目が雨と暴風、2日目は快晴。レインウェア上下ほか防寒着、着替え類、防寒グローブやトレッキングポールなど、しっかり目で揃えている。夏場であれば防寒系の装備を野営道具と調理器具に充てることも可能。あれもこれも、というわけにはいかないが、30リットルという容量は無理なくパッキングできる汎用性の高さを実感できるだろう。なお、初日の雨予報に備え、バックパック内には防水のドライバッグを入れ、荷物の濡れ対策を行っている。「RUSH 30」にはレインカバーが付属しているが、確実に防寒着や装備を濡らさないため、ドライバッグは必携だ。

ちなみに横岳~赤岳エリアは岩場も多く、落石などの危険性もあるため、ヘルメットの着用が推奨されている。携行時は RUSH PLUS を使用した。シーンによって必要となるギアの収納・携行に役立つアイテムだ。

DAY1:最悪のコンディションを駆け抜ける

天気予報は雨と暴風、そして数日前に降った雪が残っていることを考慮すると、決していいとはいえないコンディションのなかスタート。ちなみに前日は茅野市街のホテルに宿泊し、タクシーで麦草峠まで移動。ちょうど午前7時に麦草峠の登山口から山行を開始した。

スタート時は霧雨。次第に標高が上がれば風が出てくるだろうという判断で、上下レインウェアを着込み、雨と風対策を万全にしている。「二日目もあるし、服を濡らしたくない」という予防的判断ではあったが、予想以上の荒天に見舞われ、雨対策の大切さを実感することになった。

麦草峠から中山峠あたりまではほぼ樹林帯。北八ヶ岳ならではのしっとりとした森を歩き、誰もいない白駒池、高見石の眺めを満喫した。初日のコースタイムはおおよそ8時間で、順調にいけば15時には赤岳鉱泉に到着できる。あまりコースタイムを縮めるよりも、登山を楽しみつつ快適なペースで歩くことを意識した。

中山を過ぎたあたりから雨、風ともに強まり、かなりタフな状況に。ここまで登山者は誰にも会わず、「こんな日に山に登る人なんていないか」と笑いながら歩いていた。しかし、雨は山行には向かないコンディションではあるけれど、しっかり対策を行えばアトラクションのようで楽しい。

2日目にも実感することなのだが、その理由は軽快さにある。もし中〜大型のバックパックで荷物も重く、じっくり歩いていくような登山スタイルだと体への負担も大きく、辛さを感じるかもしれない。しっかり雨対策と装備を持った上で、「RUSH30」程度の荷物量、そして荷重をしっかり分散してくれる背面設計により、歩くことに集中できる。荷物やバックパックを理由に「辛さ」を感じることはなかった。

順調に東天狗を経由し、根石岳に差し掛かったところで休憩を入れることに。この先、ルート上には小屋はなく(オーレン小屋があるが樹林帯に降りなければならない)、少し早めに昼食をとることにしたのだ。なお、メインの食事(1日目のお昼と夜)は山小屋を利用することで、調理を省き、軽量化をしている。オプションとして黒百合ヒュッテがあったのだが、すっかり忘れて通り過ぎていた。

根石山荘ではカレーライスをいただき、雨が収まることを期待して停滞したものの、コンディションは変わらず、再びレインウェアを着込んで暴風雨のなかへ。眺めがいいはずの硫黄岳を足早に通過し、樹林帯へと入り赤岳鉱泉へと無事到着。これにて1日目の行程は終了。

コースタイムは以下のとおり。

麦草峠7:00
高見石7:40
中山8:41
東天狗山頂9:53
根石山荘着10:28
根石山荘発12:15
硫黄岳山頂13:11
赤岳鉱泉14:04

8時間ほどのコースタイムに対して、5時間20分。おおよそ0.67という結果に。会話をしながら歩いていたわりには順調に進むことができた。残念ながら眺望はほとんどなく、ただひたすら雨風のなかの歩く一日になったものの、充実感もあり、思い出深い山行となった。ちなみにすれ違ったのは3人(おそらく硫黄岳の小屋番さんたち)。悪天候による緊張感もあったが、静かな八ヶ岳を独り占めできたと思えばそれはそれで貴重なのかもしれない。

登山らしい山小屋泊だが、赤岳鉱泉は贅沢な夕食(この日は豚のロースステーキだった)と温泉が名物。14時過ぎに到着したこともあり、ウェアやバックパックなどのギアの乾燥、装備の整理を行ったのち、個室でのんびり、お風呂に入って夕食をいただいた。翌日は3時起床で天候確認、晴れなら赤岳アタックを予定。早朝からの行動に備え、早めに就寝した。

DAY2:稜線で見る朝日、そして冬山の気配

夜半、小屋の窓から見える満天の星空。嘘のように雲は消え、おだやかな空が広がっていた。6時の日の出に間に合うように支度し、冷え込む暗闇へと歩きだす。すでに営業を終えている行者小屋前でヘルメットを装着、地蔵尾根の取り付きへと登っていく。

2日目の懸念としては、残雪がどれほどあるか、だった。すでにトレイル上の雪に悩まされてきたこともあり、これからさらに標高を上げることを考えると、どこかで雪に阻まれることは可能性としてかなり大きかった。チェーンスパイクを携行しているが、岩場や稜線では危険度が高い。状況によっては撤退も視野に入れていた。

樹林帯を抜けて岩場、そしてクサリ場と階段を慎重に登る。空が明るくなりはじめたとはいえ、ヘッドライトが頼り。気温は氷点下をゆうに下回り、マイナス5°Cほど。稜線上はもっと寒さを感じるだろう。眼下には雲海、そして空にはピンクのグラデーションが広がる。

標高差は250mほどだが、斜度が高く、一気に登るイメージ。歩く、登るというよりも、よじ登っていくようなダイナミックなルートだ。こういうシーンでは、とにかく荷物の軽さと動きやすさに助けられる。 また、荷物に振られないことも大事。バックパックが揺れてしまうと身のこなしに悪影響が及び、場合によっては危険なシーンもある。しっかり体の動きに追従してくれることでストレスはかなり軽減される。

地蔵尾根を登りきり、地蔵の頭に出たところで日の出を見ることができた。快晴だが稜線はかなり風が強く、寒さが堪える。昨日のルートと異なり、岩ばかりで高度感もある。まさしく「登山」らしい景色のなかを、雲海と日の出というご褒美を味わいながら歩いていく。

ほどなくして、赤岳展望荘へ。ここから残雪が多くなり、見上げる赤岳へとつづくルートにもかなり雪が見てとれた。ここからは冬山登山の領域。残念ではあるが、ここで折り返して下山することに。しかしながら、八ヶ岳の素晴らしさを存分に満喫できる眺望、そして山の厳しさを目の当たりにした朝となった。

地蔵尾根を下り、行者小屋経由で美濃戸へと戻る。あれほど冷え込んだ「雪山」だったものの、樹林帯に下れば朗らかな「秋山」だった。晴れの日曜日。朝、登山口をスタートした登山者たちの「もう下りるの?」という視線を感じつつ足早に下山。路線バスで茅野駅まで戻り山行を終えた。

赤岳鉱泉4:40
行者小屋5:05
地蔵の頭6:00
下山開始6:50
行者小屋7:20
行者小屋発7:50
赤岳山荘9:10
八ヶ岳山荘9:45

コースタイムは上記。ヘルメットやウェアなどの装備調整と軽食などに時間を取られたものの、赤岳鉱泉から地蔵尾根までの登りはおおよそ0.5、他もかなり早いペースとなった。理由としては寒さと風。行動を素早くしたため、短時間で切り抜ける結果となったのだろう。

「RUSH30」で軽快な登山を

ファストパッキングの醍醐味とは、軽量化と機動性を高めることで体への負荷を少なくできることだろう。余裕が生まれる分、よりアクティブに山を楽しむことができる。装備が軽量=安全性を削っているという見方がされがちだが、「RUSH 30」であれば軽快さは失うことなく必要なウェア・ギア類を携行できることも伝えておきたい。

山行を振り返ってみると、1日目はあいにく悪天候だったものの、そこそこの距離を体力に余裕をもって駆け抜けることができた。負荷が少ないことで距離に対するネガティブな気持ちもなく、実際「北横岳から入ってもよかったよね」と話していたほど。

2日目は行動時間こそ短いが、短時間で標高差のあるルートを登り下りするアクティブな行程となった。下山に向け、登山口までの道もかなり時間を短縮して駆け下ることができた。発見としては、稜線の強い風と寒さにやられそうになっても機動性をいかしてサクッと安全地帯に戻ってくることができたこと。

ともあれ、決していいとは言えないコンディションのなか、かなり楽しむことができた。天候に対する対策や行動の判断など、現場でのスキルが求められるテクニカルさも「登山」の楽しさだ。そういう意味では、ファストパッキングにはある程度の走力が求められ、トレイルランニングや登山の経験をある程度積んでから挑むべき山行ではある(もちろん、シーズンを選び好天を狙えばずっとハードルは下がる)。

ひとつ反省点を挙げるとすれば、トレイルランニングシューズでは対応できる気温ではなかったということ。ある程度濡れからの冷えを想定した行程、装備(替えの靴下、チェーンスパイクなど)ではあったが、雪があるシチュエーションでは防水性能のあるものを使うべきだろう。ファストパッキングらしくトレイルランニングシューズを使用したい場合は、登山道の状況やシーズン、気温なども検討の上、判断いただきたい。

染谷さんのコメント

染谷さんによる山行のレビューで締め括りたいと思う。率直な「RUSH30」の使用感、前モデルの「RUSH28」からアップデートされた点、ランナー目線での山行のインプレッションは参考になるはずだ。

「RUSH30」は、前のモデル「RUSH28」よりも純粋に背負い心地がよくなった。「RUSH28」が悪かったわけではないけれど、いわゆるバックパックを背負ってる感じだった。「RUSH30」は身につけている感じ。背負っているというよりも、着てる感覚に近い。

機能面では、何と言ってもモノを取り出しやすい。とくに今回のように雨が降っているときだと開け閉めでもたつきたくないから、メインコンパートメントへの開け閉めの設計が改良されたのは大きい。あとは、背面のパッドが取り外しできるのは夏場なんかはいいんじゃないかな。これも前モデルにはなかった機能。

そしてトップポケットはやっぱり便利。ストレッチメッシュでそこそこ容量もあるからいろいろ入れることができる。主に行動食だけど、雨が降ってるときにすぐ取り出せるのは助かった。

走れるフィット感も「RUSHシリーズ」らしい。重心が高いからか揺れも気にならない。この重心の高さは「RUSH28」のときよりもずっと高く感じる。「RUSH30」はUTシリーズのようなフィット感と攻めた感じがありながらも、めちゃくちゃ荷物入る感じかな。だから、まさにトレイルランナーから山を縦走したい人にぴったりだと思う。

八ヶ岳については、ふだんはどちらかといえばトレラン目線で走れるところに行くので、なかなか機会がなかった。行けて楽しかった。超濃厚な2日間でお腹いっぱい。雨が降っていても、寒くても足取りが重くならずに小走りで抜けられたから楽だったかな。でも、踏めてないピークもあるし、来年は夏にテント泊で行きたい。きっとメシにこだわるようになるのかな。ビールの500ml缶が何本入るか気になってきた(笑)。

関連リンク

染谷英輝さんのActivity Report

KOUMI CHALLENGE vol.1

赤岳鉱泉小屋