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NINJA SHELTER × 雪中キャンプ in 北八ヶ岳
「雪中キャンプ」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。「野営でしか体感できない白銀の世界がある」「テントの中って意外と暖かいんだよ?」「雪の上にテントを張るのは夏とは違った楽しさがある」「水も食材も凍っちゃうの、面白いよね」「真冬にキャンプなんて何が楽しいの?」などなど、人によって捉え方はさまざまあるはずだ。
正直に言って、夏と比べて冬に野営をする人は少ない。シンプルに「寒い」ということもあるけれど、おそらくは「冬山登山のスキル」や「雪上でのテント設営のコツ」など、一歩を踏み出すまでのハードルがあるからだろう。実際、話をしてみると「雪中キャンプやってみたいんですよね」という人は多い。
ちなみに、パーゴワークスのクルー含め、周辺のアウトドアマンたちは冬の野営を存分に楽しんでいる。キャンプそのものが目的ということもあるが、雪山登山のベースキャンプ、バックカントリースキーの拠点、ロングハイクの宿泊手段など、何かの遊びのために野営をしているケースも多い。雪中キャンプがあることで、遊びの幅が大きく広がるという点も忘れてはならない。
そこで、今回は「雪中キャンプ」をテーマに記事をお届けしたいと思う。冬ならではの非日常を味わえる野営の楽しさを軸に、安全かつ快適性を担保したシェルターの設営方法など、実用的なハウツーまでご紹介。雪中キャンプの楽しさは、体感した者にしかわからないものだ。ぜひともこの記事を参考に、冬という魅力あふれる季節を遊び尽くしてほしいと思う。
メンバーはパーゴワークスクルーの「ケニー」と「クノール」。アウトドアの遊びを知り尽くし、さらなる楽しさを日々追求する彼らが、雪中キャンプの世界へと誘う。
メンバー
相田健汰(ケニー)
パーゴの営業担当。秋田出身の30歳。昨年まで消防士だったが山好きが高じて、パーゴワークスへ入社。春は山菜採り、夏はトレランやアルプス縦走、秋はきのこ採りやキャンプをして、冬は雪山ハイキングとスキー、年中無休で山にいる。
久能岳士(クノール)
ナビキャンへの参加がきっかけでパーゴワークスでアルバイトをすることになった、21歳大学生。登山やMTB、パドルスポーツまでこなすオールラウンダー。今回の旅のために5万円以上する冬靴とクランポンを購入して臨んだ。
雪中キャンプとは何か?
クノール 「おれ、じつは雪中キャンプの経験ないんすよ」
ケニー 「え、そうなの? あんなに山行ってるし、スキーもやってるじゃん。でも、野営する機会って意外と少ないよなあ。わかった。じゃあ教えたる。一緒に雪山に行ってテントの中で旨い酒でも飲もうぜ」
クノール 「あざーす! ぼく、歩荷しますね。荷物担ぎます。はじめてなのでいまのうちに聞いておきたいのですが、雪中キャンプに必要なモノってあります?」
ケニー 「厳冬期の山だし、雪上にシェルターを張らなきゃいけないし、ちょっと準備は必要。まずはそこからやっていこう」
そんな2人の会話から雪中キャンプ計画がスタート。ロケーションは、厳冬期ハイキングでもメジャーな北八ヶ岳をセレクト。スキー場のロープウェイを利用し、北横岳をピークハントし、冬期も営業している双子池ヒュッテのテント場で雪中キャンプを実践、翌朝はぐるっとまわって戻るループコースを描いた。
さて、今回の「雪中キャンプ」だが、文字どおりで言えば、雪の中でキャンプをすること。画像検索をしてみれば、いろいろなタイプのイメージが出てくるだろう。しかし、ルート設定からもわかるように、冬山をハイキングしつつ、山奥のキャンプサイトで野営をする、盛りだくさんな内容となっている。全行程は約18km。移動のないキャンプ場ではなく、全装備を背負ってハイクすることで、縦走などの山行も想定しているのだ。
冒頭でも触れたように、キャンプそのものが目的というのもいい。しかし、野営を起点に遊びを広げていく、見つけていくことが、パーゴワークスが追求し、提案していきたいアウトドアなのである。
ケニー 「さて、雪中キャンプに必要なギアはこちら。シュラフやグローブといった基本的な冬山登山の道具は必要だけど、野営でプラスしておくと便利なものはいくつかあるんだ」
クノール 「NINJA SHELTERって、フロアレスですよね。冬でもいけるんですか?」
ケニー 「むしろ冬はフロアレス、しかもシングルウォールが使いやすいときもある。メリット、デメリットについては現地で。あとは雪の上での設営には、整地したり耐風ブロックを作るためのスコップ、アンカーになる雪対応のペグかな。これも、使い方は張りながら教えましょう」
DAY 1 猛吹雪の中で思う「雪中キャンプまでの道のりがつらい」
そして迎えた山行初日。ゴンドラを降りた先で目にしたのは、白銀の、いやホワイトアウトした世界であった。いく手を拒むかのような吹雪。強風で飛ばされた氷の粒が凶器のように襲ってくる。冬山登山の日にしてはまあまあハードだ。
北八ヶ岳ロープウエイの頂上駅から約3時間のハイクを終え、双子池キャンプ場に到着。池の周りの「安全地帯」を探し、NINJA SHELTERの設営に取り掛かる。吹雪のなかで立っているだけで寒さが襲ってくるほどの悪天候。こんなときは、雪国育ちの元消防士、いつも冷静なケニー兄貴が頼りになるのだ。
ケニ- 「いやはや、結構ハードだったね。でもノートレースの登山道はパウダー乗ってて、つい滑りたいなって思っちゃったよ」
クノール 「結構普通に雪山登山でした。ほとんどの人が北横岳のピストンだったから、山頂から先はルートファインディングしなきゃいけなくてちょっとひやっとしました」
ケニー 「GPSで地図を確認したり、怪しいと思ったら戻ったりとか、そういう判断も冬山では必要。ひとまず無事にキャンプ地にも到着したことだし、早速シェルターの設営といきますか!」
NINJA SHELTERを雪上で張るために知っておきたい5つのポイント
バッドコンディションのなか、なんとかテント場に到着したパーゴクルー。山小屋で受付し、キャンプ適地を選び、早速設営に取り掛かる。グリーンシーズンとは異なり、雪のあるコンディションでは設営にひと工夫が必要。実際に張る様子を、雪上での設営TIPSとともにご紹介しよう。
快適性を左右する「場所選びと土台作り」
設営場所は、「風を受けにくく」「快適なフラットな場所」を探すことからはじまる。眺めがよくても、ダイレクトに風を受けるような場所では倒壊のリスクもあるからだ。風を抑える障害物があるかどうか、風はどちらから吹いてくるかを考慮しよう。障害物がない場合はスノーブロックを切り出して壁を作るのが一般的。そして場所が決まったら土台作り。スコップで不要な雪をどかしつつ足で踏み固め、フラットなスペースを作る。
付属のガイドテープを使うことで、ペグダウンする位置を素早く決めることが可能。特に気温が低かったり、風が強い場所では、1秒でも早く設営することで体力の消耗を防ぐこともできる。雪上でも見やすいオレンジ色のガイドテープを採用しているのはそういった理由がある。
降り積もる雪と風対策には「トップテンション」
四隅と両サイドのペグダウンに加え、ポールを支えるシェルター頂部にトップテンションを張ることで耐風性能がグッと向上。積雪期に限らず稜線上や悪天候時に役立つ機能だ。ちなみに今回はポールを120cmにしてシェルターを低く設営。二段階で高さを変えられるのもNINJA SHELTER の良いところ。屋根高さを低く設営することで耐風性を高めることができる。
夏とは勝手が違う「雪上でのペグダウン」
ペグは地面に対して垂直に打つもの。しかし雪の上では摩擦が少なく、抜けてしまう。そのため、ペグを横向きにして雪に埋めることで抜けにくいアンカーにできる。雪が柔らかすぎる場合はペグをクロスしたり、太い木の枝を使うなどして抵抗を増やせばいい。
今回はパウダースノーだったため、ペグを雪で埋めたあとに水をかけて凍らせることで強度を高めている。ニンジャシェルターに付属しているペグも使えるが、表面積が広く雪に埋めて使いやすいスノーペグ(MSRのブリザードステイク)も使用した。
安定性を高める「ガイラインの調整」
ニンジャシェルターはガイラインを取り付けられるループを豊富に備えている。活用次第ではシェルターの安定性だけでなく、居住空間の拡張もできる。長辺のループにガイラインを取り付け外側に引くことで居住空間をより大きく作ることも可能だ。また周辺の枝や笹などをアンカーとして活用するためには細いロープや長めのガイラインなどを追加で用意していくと便利。
スカートを雪で埋め「防風対策」を
シェルターのスカートを雪で埋めることで冷気をシャットアウト。雪の侵入も抑えることができる。これによりかなりの密閉度が得られるのだ。シェルター内部での火器の使用に関しては、上部にベンチレーションを設けているため通気は確保されているが、ジッパーを一部開けるなどして、一酸化炭素中毒には細心の注意を払ってほしい。
雪中キャンプにフロアレスシェルターを勧める理由
基本+アルファのテクニックを駆使して、テキパキと設営が完了。先を競うように2人でシェルターの中に靴のまま転がり込み、ジッパーを閉じた途端、「温かい!」。さすがに外気は低く、結露が凍結するものの、風が抑えられるだけで快適な空間になることに驚く。クノールが気にしていた「冬なのにフロアレスで大丈夫?」という不安は、スッキリ解消されたのだった。雪中でのフロアレスシェルターの利点はズバリこれ。
フロアがないので「シューズのまま過ごせる」
雪中キャンプでは夜中に外に出てテントを張り直したり、積もった雪を除けたりと、なにかと作業はあるが、温かいシューズのまま出入りできる。
フロアが雪なので「調理に気を使わない」
お湯や食材をこぼしたりしても、普通のテントよりも気を使わずに済む。火気を使う場合でも換気と土台さえしっかりしていれば問題なし。
複数人で使えるサイズなのに「軽量」
NIINJA SHELTERは重量が1.1キロと軽量なのに大人2人が余裕で過ごせる広さがあります。装備の増える冬こそ、荷物は軽量化したいもの。軽さは正義なのだ。
フロアレスシェルターの利点を述べてきたが、一方で注意点もある。
ダブルウォールと比べて「保温性が低い」
通常のテントより保温性は劣るが、スカート部分に雪を乗せて防風するなどの対策をすればOK。また、地面からの冷えを防ぐために、R値の高いマットを使用するのがオススメ。
気温差によりシェルター内部が「結露する」
フロアレスだからというよりは、シングルウォールのシェルター全般に言えること。テントの内外気温差の大きい冬場はとくに結露を避けられないものだ。シュラフを濡らさないために、就寝時にはカバーが必須。一方で、結露が溜まることがないため、フロアが濡れないというメリットもある。
フロアレスは万人に向けてオススメできるものではないかもしれない。しかし、知識と経験を活かすことで、グリーンシーズンのみならず、厳冬期の山でも野営ができるギアとして活用することが可能になる。
事前に準備してきた食材を調理しグツグツと煮て、午後早めの時間からの宴会そして人生相談がはじまった。ケニー兄貴が消防士時代に培った手際の良さで、美味しそうな料理をポンポン作っていく。
ケニー:この旅ではシェフを担当。僕の地元・秋田の地酒「雪の茅舎」とのペアリングを考えて、”映える”メニューを考案。『130×185のトレイルポットの中に夢を詰め込む』ことをテーマに、できるだけカラフルで、できるだけ多い品数を6時間の宴会で次々と振る舞いました。ひとりだったら絶対に作らない料理を2人で酒を交わしながら、作るのが楽しかったです。アヒージョ、トマト鍋、鳥もも肉のソテー、ウインナーソテーと目玉焼き、極め付けはパエリア。日本酒はぬる燗で。煮る、焼く、温める、トレイルポットが全てを叶えてくれました!
クノール:テント内で過ごす時はクローズドセルマットレス(Zライトソル)を地面に敷きました。マット一枚でも雪面からの冷気や水気を十分に遮断し、常に快適に過ごすことができました。ケニーと僕の荷物は結露と雪で濡れないように防水バックに入れて対策し、シェルターの両端に土間のようなスペースができるので、そこに寄せて置きました。几帳面に荷物をまとめなくても、大人2人が寝たり、宴会を楽しんだりとスペースに余裕を感じました。美味しい料理と熱燗で体の芯から温まった後はふかふかの寝袋に潜り込み、朝までぐっすり眠ることができました。
DAY 2 快晴平穏の八ヶ岳
昨日の吹雪が嘘だったかのような晴天、しかも無風。朝日が木々を照らしはじめるのをシェルターから眺めながらもぞもぞと寝袋から這い出す。手際よくフロントパネルを跳ね上げ、オープンスタイルに。景色を眺めながら朝食の準備に取り掛かる。
クノール:冬山の朝はコレをやらなきゃ始まらない! それは、起き抜けのホットコーヒー。ベッドを軽く片付け、フロントパネルをオープンにすると、待ちわびた晴天が待っていました。クッカーで近くの雪をザクっとすくって、そのまま火にかけて沸かすことでお湯を確保。キリッと頬を刺す氷点下の空気を感じながら、温かい淹れたてのコーヒーをすすり、あくびをひとつ。最高の目覚めでした。
凍った食材を解凍しながら焼き、煮る。「寒い山のなかでキャンプなんて」と思うかもしれないが、これこそが非日常の楽しさであり、雪中キャンプだからこその面白さなのだ。そして、意外にも寒さには慣れてしまうもの。「1日目の吹雪には辟易したけど、天気が良すぎてもつまんないよね」と話しはじめる始末。これも雪上キャンプならではの体験なのだ。
名残惜しさを感じつつも「下山後の温泉」が頭の中から離れず、パッキングを整えシェルターを撤収。苦労した吹雪のなかでの設営と比べ、好天では拍子抜けするほど簡単な作業となった。そして新雪の降り積もった登山道をのんびりと歩き、スキーヤーと登山者で賑わうロープウェイ山頂駅へと戻ったのだった。
雪中キャンプが広げてくれるアウトドアの可能性
極寒の山中という過酷な環境でキャンプをすることは、人によってはただの苦行に見えるかもしれない。重い荷物を背負い、雪道を歩き、山を越え、寒さに耐えながら過ごす。しかし、そんな環境のなかで、自分たちの手で安全地帯を作り、快適な環境をこしらえる。この、野外で生きる力を磨き、実践することは、「アウトドア」を楽しむ者にとって大きな楽しみであり、達成感につながる行為でもあるのだ。
そして、今回は1泊2日の山行だったが、軽量な装備での野営を通じて感じるのは、数日をかけて山々を縦走したり、はたまた雪深い僻地の山中を旅したりと、さまざまなフィールドへの可能性が広がっていくこと。もちろん、厳冬期の野営には、トラブルへの対処やリスク管理、寒さへの慣れなど、さまざまなスキルが求められる。装備を整え、経験を積むことで、アウトドアの楽しみは拡張されていくのだ。とはいえ、肉を焼き、酒を飲むというシンプルな喜びも忘れてはいけないのだけれど。
NINJA SHELTERを持っている人は、ぜひとも冬のキャンプに出掛けてみてほしい。これまでにない体験がきっと、できるはずだ。そして、この記事を見て興味を持った人にも、雪中キャンプにトライしてみてほしい。まずは近場の山で試すのがおすすめ。シェルターの目の前に広がる白銀の世界を眺めながら、どんなところに、何をしにいこうか考えるのは楽しいものだ。
ケニー:八ヶ岳といえば、かの有名な「八ヶ岳ブルー」。初日はあいにくの「八ヶ岳ホワイト」な荒天でしたが、それも楽しみの一つ。吹けば飛ぶほどふわふわなパウダースノーと、時折吹き付ける爆風にゲラゲラ笑いながら歩きました。翌日はあっけなく晴れて、夢のような銀世界を満喫。今回は八ヶ岳のツンデレ具合に振り回されたのもいい思い出です。
クノール:体力だけが取り柄の僕は歩荷担当。宴会用の食材や酒のほとんどを僕が持っていくことになりました。重くて歩くスピードも上がらないし、暴風でじっとしている時間も長くありましたが、同時に北八ヶ岳の美しさを楽しむ余裕を持つことができました。そんな今回の旅で感じたのは「可能性」。今回は雪が少なくなくて断念しましたが、雪面を掘って宴会テーブルを作ったり、スノーブロックを積み上げて半イグルーみたいにしてみたり、快適性を求めればまだまだできることはありそうです。「こんな使い方したら面白そうだよね。」なんて話をしながらの下山は、僕の心を次の挑戦へと駆り立ててくれる時間になりました。
ケニーとクノールの雪中キャンプ装備
ケニー
TRAILPOT S900
2024年秋に発売予定のソロ用山クッカー。フィールドテストを兼ねて、トレイルポット1200とトレイルポット900を持っていきました。角形を生かしたスタッキングが特徴で、900の中には、110サイズのガス缶とバーナー、カップとカトラリーまでまるっと収納できます。もちろん調理性は、900mlというサイズ感がちょうどよく、ソロの鍋として、パーティーのサブ鍋として活躍してくれました。
クノール
リップストップナイロンにPCコーティングが施されているSWITCHシリーズのカラーバリエーション。カメラのような重量のあるものも安心感を持って収納することができ、表面に雪が張り付かないのもこの生地の利点です。よく晴れた2日目の朝、テントの周りを軽く散策するのにも最適でした。
NINJA SHELTER
NINJA SHELTERは軽量コンパクトな2人用のフロアレスシェルター。フロアレス構造は、日差しや雨露を防ぎつつ開放感を楽しめる仕様で、寒い時はスカートを巻き込んで設営したり、インナーテントと併用することで、河原から雪上まで、使用環境や季節を問わずに使うことができます。重量は本体とポール2本で1.15kg、収納時のサイズは45X15cmに設計し、ハイキングやバイクパッキングでも無理なく運べるサイズ・重量にこだわりました。